「出張」 なんという心地よい響きなのだろうか。地元で商売をしている私にとって、出張は夢のまた夢である。一度でいいから、「急な出張がはいってしまって、参った、参った。」と言ってみたい。これが私の夢であった。
先日、広島でお世話になった友人のお母さんがご逝去されたという事で、お通夜に行くことになった。広島日帰りである。新幹線の切符を買って、喪服の準備をしている私の背後から、女房が声をかけてきた。
「広島に出張?」
「何?」
私は一瞬、脳天をハンマーでたたき割られたような衝撃を感じながら振り返った。
「これ、、、、しゅ、出張か?」
「そうと言えばそうかもね。」
やった、やった、私はついにやった。私はやり遂げた。エイドリア~~~~ン。ついに人生最大の目標であった出張をこの手で、自力でたぐりよせたのだ。(ホンマカ?)一念岩をも通す。人間は最後まで夢をあきらめなければ、必ず夢はかなうのだ。
翌日の朝、私は家族全員の前で、慇懃無礼につぶやいた。
「まいったよ、急な出張が入っちゃってさ。」
私は出張という言葉に、非常に敏感になった。
休日、家族がイケアに行きたいというので、「わしは疲れているのだ。アホぬかせ。勝手に行って来い。」というと、
「ねえ、お父さん、イケアまで出張に行ってくれない?」と言ってきた。
「出張か?」私は聞く。「出張よ。」
よしわかった。みんな、準備しろ。お父さんが車で連れて行ってやる。私は、単純なアホ人間であった。そして、心の中でつぶやく。
「まいっちゃったな、急な出張だぜよ。」
イケアはエアコンが効いていてとても快適であった。こんな大きな現場の業務用エアコンクリーニングが出来るようになれたらなと少し思った。無、無理か。。。。。
先日、疲れていたので、エアコンのよく効いたリビングのソファーで寝ていると、女房が「ねえ、ココの散歩行ってよ。」と言った。
アホ言うな。朝は俺、夜はお前だろうが。今日の朝はちゃんと俺が行ったぞ。自分で行けよ。
そう言うと、女房が言った。
「ねえ、ココ連れて、町内一周、出張してくれない?」
何?
そして、私は言った。
「まいったなあ、急な出張か。しかたないな。」
おしまい。